Misandry Blog

ミサンドリー(男性嫌悪)なブログです。

春名風花さんのエイブリズムを批判する

※この記事は2017年7月19日の更新を最後に放置していたものです。一部加筆修正しています。

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できる人以外はいらない主義

春名風花さんとは、多方面で活躍されている16歳の女優・タレント・声優です。愛称ははるかぜちゃん。

春名風花 - Wikipedia

エイブリズムとは、「できる人以外はいらない主義」(この訳については後述)のことです。

まずは、わたしがド直球のエイブリズムだと感じた春名さんのツイートをお読みください。

こういうド直球の差別に接するとものすごいダメージを受けるんですよね…。

どうして春名さんはこのようなツイートをしたのか。きっかけは週刊少年ジャンプで連載中の『ゆらぎ荘の幽奈さん』の巻頭カラーイラストが批判されたことです。

仮にゆらぎ荘問題としましょう。ゆらぎ荘問題はこちらのツイートが発端でした。

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上のツイートを受けて太田啓子弁護士がこのように反応。

これらの批判に対して、春名さんはTwitter上で何度も反論しています。以下はその一部です。

上記3つのツイートの問題点は4つ。

1. 誰もそんなことは言っていない

2. エロ=暴力ではない

3. 本編が100点満点だとしても巻頭カラーイラストが-10,000点にしている

4. 「教育マンガ」と「自制心を教える」漫画はどちらも教育が目的なのでは?(漫画が教育効果を内包しているのであれば、その漫画が息子にとってよくないと考える母親が購入を控えるのもまた当然では?)

では、春名さんのツイートがなぜエイブリズム(ableism)なのか。ableismを辞書で引くと、「障害者差別」や「健常者優先主義」と書いてあります。しかし、これだと障害者さえ差別しなければそれでいいと理解する人も出てくるでしょう。

そこでわたしは「できる人以外はいらない主義」というオリジナルの訳を考えてみました。ableとは「~することができる」「有能な」。社会の役に立たない人間に価値はないという日本の不文律を可視化する目的があります。

精神的に健康な人間はどの作品からも、プラスのエネルギーを得ようとするものです。それをマイナスに転化するひとは、まんがを読む前から心の健康を損なっていたのだと思います。

最初にご紹介したツイートで春名さんはこのように言っていますが、なぜ医者でもない春名さんが他人を「健康/不健康」と断じることができるのでしょうか? なぜ自分は「健康」であると信じることができるのでしょうか?

たとえば、ロボトミー手術。昔はうつ病患者や統合失調症患者、同性愛者の脳の神経を切断することが当たり前でした(「ロボトミー手術を受けた兵士の戦後」)。

ハンセン病患者や精神障害者知的障害者は強制的に断種手術を受けさせられていました。日本では1949年から1994年の45年間に1万6千件の強制的な断種手術が行われました(断種 - Wikipedia)。

こちらのブログでは、過去実際に提唱された同性愛者を治療する13の方法が紹介されています。

「健康/不健康」は簡単に基準が変わります。徴兵検査もそう。平時では即時入営にならなかった「不健康」な男性も、戦局の悪化によって戦地にどんどんと送られていきました。

わたしがなぜエイブリズムを批判するのか。先月末*1にはバニラ・エアが車椅子の男性にタラップを自力で登らせた事件が報じられました。1年前の7月26日には相模原障害者施設殺傷事件が起きました。

「できる人以外はいらない」は「じゃあ、殺しちゃおう」につながります。

きちがいだわ この子…

ここで脇道にそれて春名さんのブログを見てみましょう。春名さんはゆらぎ荘問題に対して自身のブログでも反論しています。

lineblog.me

春名さんは、作品批判派がどれだけひどいことを言っているのかわかりやすく説明するために、名作演劇漫画『ガラスの仮面』を引き合いに出しています。

マヤはまだ義務教育も終えていない未成年の女の子です。物凄い苦痛の表情を浮かべています。涙もたくさん流しています。これは作者によるイジメです。児童虐待です。演劇の楽しさを伝えたいなら、子どもを虐待する必要は無いはずですよね。表現方法に問題があるのでは?これを見た人が真似をして、演技の稽古だと言いつつ子どもを虐待するようになったらどうするんですか?出版社は責任が取れるんですか?その表現方法は過激すぎるのでは?今すぐその表現を変えろ

と、言われたらどう思いますか???

誰もそんな主張はしていません。

例として比較するなら、「悟空は未成年の男の子です。全裸にされて涙を流しています。これからピッコロ大魔王と戦うのに、恥ずかしそうに顔を赤らめて股間を隠しています。その表現方法は過激すぎるのでは?」が正しいでしょう。

これは本当にいろいろな人が言っていることですが、現在の日本社会では殺人も窃盗も児童虐待も、同情の余地などない悪事だという共通認識が形成されています。しかし、性犯罪は違います。

中村格警視庁刑事部長(当時)が強姦事件を揉み消したという事実が告発されても、いまだに安倍晋三は総理大臣です。しかも、中村は警察庁総括審議官に昇進。

また、ニューズウィーク日本版「レイプ事件を届け出る日本の被害者は氷山の一角」によると、2013年に日本で起きた強姦事件の認知件数は人口10万人あたり1.1件。

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58.5件ともっとも突出しているように見えるスウェーデンは、2016年版ジェンダー・ギャップ指数で144カ国中4位。日本の次に認知件数が少ないように見えるインドはジェンダー・ギャップ指数87位。日本は111位*2

女性が元警官や現役警官から集団で強姦された事件は、不起訴→不起訴不当→不起訴(小川たまか「フィクションと実相」)という経緯を辿りました。

この事件を報じるJ-CASTニュース記事(性犯罪事件の詳細が書かれています)では「冷ややかな声も出ている。」と紹介。

「人が壊れる様を見るのは異常に興奮します」とプロフィールに書いていた元警官が、掲示板で仲間を募って実際に女性を輪姦した事件に対して「冷ややかな声も出ている。」。

この国のどこに「性犯罪は同情の余地などない悪事」だという共通認識が形成されているのでしょうか?

また、作品擁護派は公権力による規制とゾーニング&自主規制を同一視しています。母親によるチェックを「お母様方の検閲」と皮肉る春名さんも、公権力による規制とゾーニング&自主規制を同一視しているのでしょう。

さて、春名さんがブログで引き合いに出した『ガラスの仮面』。春名さんは好きな場面として第1話のクライマックスをあげています。

好きな場面はいっぱいあるけど、
やっぱり一番の衝撃は、最初の大晦日です。
汽笛が鳴り響く中、たかが椿姫のチケット1枚欲しさに、大晦日の年越しそばの出前を1人でやり続け、着衣のまま真冬の海に飛び込むマヤ。死ぬよ!!!

このマヤのぶっ飛んだ行動を見て、チケットの持ち主である杉子は「な…なによ/どうかしてるわ この子…」と恐れおののきながら呟きます。実はこのセリフ、元は「きちがい…/きちがいだわ この子…」でした。

単行本2巻に出てくる「おたずねしますがここはきちがい病院ですか?」というセリフも、「おたずねしますがここはどういう施設ですか?」に変更されています。

d.hatena.ne.jp

何が言いたいかというと、「きちがい」を使わない自主規制は、擁護派にとって公権力による規制と同等の忌むべきもの。こういう作業は編集者の仕事でしょうが、作者にも了承を得るはず。

従って、作者が自らの作品に忌むべき検閲をしたわけですが、この場合も表現の自由が侵害されたことになるのでしょうか? それとも、作者はあくまで自主規制の被害者なのでしょうか?

男性=人間(MAN)

擁護派のとても都合のいいところは、いい影響は手放しで絶賛するくせに悪い影響は一切無視するところ。

たとえば、裁判を傍聴している方のブログ(性犯罪事件の詳細が書かれています)では、女子中高生がレイプされるAVが好きなあまり、実際に14歳の女の子をレイプした被告人が紹介されています(14歳の女の子は3人目の被害者)。

春名さんは『ガラスの仮面』の影響を受けて女優になったそうですが、春名さんが漫画を読んで女優になりたいと思ったように、AVを観てレイプしたいと思った男性もいます。そして、レイプしました。これが春名さんの絶賛するフィクションの力です。

レイプは極端な例だと思われるでしょうか? 「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」では、痴漢で捕まった被疑者の1.8%が「痴漢のビデオやDVDを観てやってみたいと思ったから」と答えています。これは質問に答えた被疑者の数でしかありません。

『続・女性の体とお金だけが欲しいジャンプ編集部』でご紹介しましたが、男性はポルノを観ると女性を物として認識するようになるという実験結果が出ています。児童ポルノには何らかの強い規制が必要だと主張する専門家もいます。

『ゆらぎ荘~』は少年漫画であってAVではないと思うでしょうか? では、『ゆらぎ荘~』の巻頭カラーイラストとAV(またはエロ漫画)の違いはなんでしょう? どちらも女性が嫌がったり恥ずかしがったりする様を、女性の裸体と一緒にサービスとして消費者に提供しています。乳首や女性器を隠してはいますが、件のイラストの手法はAVと同じです。

たとえば、敵と戦っている悟空が毎週毎週全裸になっていたらどうでしょう? 全裸になるたびに涙目になりながら「キャー!」と叫び、恥ずかしそうに顔を赤らめて股間を隠していたらどうでしょう?

悟空だけではありません。ベジータもピッコロも悟飯も戦闘の最中になぜか全裸になっては「キャー!」と叫びます。『ドラゴンボール』だけではありません。『ONE PIECE』でも『NARUTO』でも『BLEACH』でも、男性キャラが戦闘の最中になぜか全裸になっては「キャー!」と叫びます。

男性が侮辱されていると感じないでしょうか? 何より「クソうぜえ」とイラっとしませんか? これが少年漫画で描かれる女性です。

現実世界で全裸にされたり胸をつかまれたら、まず感じるのは強い恐怖です。強い恐怖を感じた人間は体が硬直します。声が出ません。わたしも性犯罪被害にあったことがありますが、声は出ませんでした。体が硬直します。恥ずかしさのあまり頬が熱くなったりはしません。血の気が引きます。少年漫画にこのような反応をする女性キャラは出てきません。

「AV(またはエロ漫画)と同じ手法で描かれた女性」を浴びるように見て育った男性は、全裸にされたり胸をつかまれても女性はどうってことないはずだと思うでしょう。ポルノを観たら女性を物として認識するようになるんです。「AVと同じ手法で描かれた女性」を見ても同様の結果になることは想像に難くありません。

もしかしたら、少年漫画一作一作の影響は大したことがないかもしれません。しかし、日本のコンテンツは漫画だろうが映像作品だろうがどれも似たり寄ったりです。「女性=物」の認識は強化されても解除されることはありません。世界広しといえど、妊婦というだけで暴力を振るわれる国は日本くらいのものでしょう。

女性差別も一種のエイブリズムです。「男性=人間(MAN)」が規範の社会において、女性は「できない」存在。最近は減ってきましたが、少年漫画における女性の立ち位置はまさに「できない」存在。足を引っ張るだけのヒロインは珍しくありません。

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*1:2017年6月28日

*2:2017年は114位