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Misandry Blog

ミサンドリー(男性嫌悪)なブログです。

ミソジニーな社会を生き抜くために観るべき作品5選(中)

エルサの肌が緑色になった話

女性が憎くて憎くて仕方がないこじらせ男子。ドッグランのようにこじらせ男子が無邪気に駆け回るミソジニー女性嫌悪)な社会で、われわれ女性はどう生き抜くべきか。

憎悪に打ち勝ちたい女性におすすめの作品を、前回は『プロデューサーズ』『glee/グリー』の2本ご紹介しました。今回は残りの作品をご紹介します。

まずはブロードウェイ・ミュージカル『ウィキッド』。(※ネタバレ注意)

Wicked

Wicked

  • アーティスト: Stephen Schwartz,Stephen Oremus,Joel Grey,Kristin Chenoweth,Sean McCourt,Cristy Candler,Jan Neuberger,Idina Menzel,Michelle Federer,Christopher Fitzgerald,Carole Shelley,William Youmans,Norbert Leo Butz,Manuel Herrera
  • 出版社/メーカー: Decca Broadway
  • 発売日: 2003/12/16
  • メディア: CD
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『観るべき』というタイトルなのに、簡単には観られないブロードウェイ・ミュージカルです。すみません。上のサントラを10年前に買ったんですが、今はジャケットが色あせて別の色になっています。

www.shiki.jp

2015年10月現在、日本では『ウィキッド』が観られません。2016年5月に北海道四季劇場で上演が始まるそうなので、お近くにお住まいの方はぜひ一度足を運んでみてください。

ウィキッド』は2003年にブロードウェイで開幕しました。翌年、エルファバ役のイディナ・メンゼルトニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞(作品は他2部門でも受賞)。

イディナ・メンゼルは映画『アナと雪の女王』のエルサ役でおなじみですね。初めて『アナ雪』のあらすじを知った時、「ウィキッドのパクリやんけ」と思いました。

しかし、よく考えるとパクリではないんですよね。なぜか。『古畑任三郎』(フジテレビ系)が『刑事コロンボ』のパクリではないのと同じ理由です。

刑事コロンボ』は誰もが知っている有名なテレビ映画です。主人公の刑事がかなり風変りであること、犯人を明らかにしてから物語が進む倒叙ミステリであることも有名です。『古畑任三郎』と『刑事コロンボ』の主だった共通点はこの二つ。

何より、ミステリの最大の売りであるトリックを脚本家の三谷幸喜氏本人が知恵を絞って考えています。日本を代表するミスター・パクリエイターは、デザインの最大の売りである創造性、独創性をすべて知る人ぞ知る作品から盗んでいました。

ウィキッド』はアメリカでは誰もが知っているミュージカルです。ブロードウェイ公演はいまだに続いていますし、並行して地方巡業も行われています。また、2010年にイディナ・メンゼルホワイトハウスに招かれ、『ウィキッド』のナンバー『Defying Gravity』を歌ったことがありました。アメリカ人にとって「イディナ・メンゼル=エルファバ」なんです。

ちなみに、イディナ・メンゼルは前回ご紹介した『glee/グリー』にゲスト出演しています。ミュージカル俳優の卵、レイチェルの母親役です。グリンダのオリジナルキャスト、クリスティン・チェノウェスも元クイーンビー*1役で出ています。

ミュージカルの最大の売りはなんといってもキャッチーな曲です。『アナ雪』の曲はロペス夫妻が作りました。魅力的なメロディと歌詞のおかげで、日本でも爆発的ヒットを記録したのはご存知の通り。

って頭ではわかっていても、やっぱり「まんまウィキッドやんけ、エルファバやんけ」って思っちゃうんですよね~。

たとえば、エルファバもエルサも妹が一人いる長女。国を統治する一族の生まれ。生まれつき不思議な力を持っている。その力のせいで民衆から命を狙われ、城を襲撃される。心を閉ざしていたものの、天真爛漫な年下同性キャラのおかげで前向きになる。そして、中の人がイディナ・メンゼル

ということで、『ウィキッド』はエルサの肌が緑色になった話だと思っていただければ、だいたい合っています。『Defying Gravity』も『Let It Go』も歌詞が似たような内容ですし。

日本人はオズ市民

ここで『ウィキッド』のあらすじを簡単にご紹介します。主人公は緑色の肌をしたエルファバとブロンド美人のグリンダ。映画『オズの魔法使』に、肌が緑色で水に溶ける西の悪い魔女が出てきますよね。あれがエルファバです。『ウィキッド』はエルファバがオズを震撼させる西の悪い魔女になった経緯をたどっていく物語です。

原作は小説『ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語』(グレゴリー・マグワイア著)。

ウィキッド(上) 誰も知らない、もう一つのオズの物語

ウィキッド(上) 誰も知らない、もう一つのオズの物語

 

エルファバという名前はグレゴリー・マグワイアが小説『オズの魔法使い』の作者、ライマン・フランク・ボームのイニシャル(L・F・Ba)からもじって名づけました。

エルファバの父親はマンチキン国の総督。母親は次女ネッサローズを出産した際に死亡。父親はネッサだけをかわいがって育てます。肌の色のせいで友達もできなかったエルファバですが、ネッサの大学進学を機に、自身も世話係としてシズ大学に入学します。

『アナ雪』と違い、フィエロというチャラい王子様をめぐって親友グリンダと三角関係になります。原作は濡れ場が出てきますし、ミュージカルと比べて重い展開が続きます。結末も違います。

劇団四季が『ウィキッド』を上演していなかった頃、どうにかして話の筋を知りたいと思い、原作を読んだのですが、いっそう混乱しました。(わたしが読んだのは下の旧版)

オズの魔女記

オズの魔女記

 

映画化されれば気軽に『ウィキッド』が観られるんですけどねー。映画化が決まってから進展が全然ないんですよねー。

原作が大人向けであるため、ミュージカルも現代社会に対する風刺が満載です。肌が緑色だから、動物だから差別される、という設定もそうですが、グリンダの歌う『Popular』も、人気ですべてを判断する大きな子供たちを皮肉っています。

CELEBRATED HEADS OF STATE OR

(名高い国のトップや)
SPECIALLY GREAT COMMUNICATORS

(特別で素晴らしいコミュニケーター*2

DID THEY HAVE BRAINS OR KNOWLEDGE?

(彼らに賢い頭がある?)
DON'T MAKE ME LAUGH!

(笑わせないで!)

パン(食糧)とサーカス(娯楽)さえ与えておけば、民衆はいくらでも言いなりになると思ってる政治家って世界中にいますよね。アベノミクスを与えてやってるんだから、いくらデモをしようが、お前らに物申す権利はないって思ってる奴らな。

小泉純一郎も「聖域なき構造改革」とか言って人気だけで規制緩和を推し進めて、今日の格差社会日本の礎を築いたんですけどね。「小泉劇場」「郵政選挙」ってありましたよね。懐かしー。日本人って魔法使いを崇めるオズ市民ですよね。

ウィキッド』は「人気」がキーワードになっています。オズを統べる魔法使いは、こけおどしの装置を使って不思議な力があるように見せかけているだけの普通の人間。しかし、オズでは偉大な指導者として崇められています。

魔法使いはエルファバに独裁者としての顔を見せ、協力を求めますが、ヤギの教授を慕っていたエルファバは拒みます。エルファバが魔法使いと戦うことを決意する一方、人気者として生きてきたグリンダは魔法使い側につくことを選びます。

人気など必要ないエルファバと、人気者としての生き方しか知らないグリンダ。この時の決断がそれぞれの人生を大きく変えていきます。

ウィキッド』の曲にはよく「empty-headed(無知な)」「brainless(愚かな)」という歌詞が出てきます。これは何も考えずにお上の言いなりになる大衆を皮肉る一方、言葉遊びと伏線にもなっています。言葉遊びはこれだけではありません。

たとえば、グリンダがエルファバに黒いとんがり帽子を差し出しながら、「You know black - is this year's pink(黒は今年の流行りよ)」と歌うんですが、グリンダの着ているドレスがちゃっかりピンク。

LET HIS FLESH NOT BE TORN

(肉が裂けないようにして)
LET HIS BLOOD LEAVE NO STAIN

(血が流れないようにして)

THOUGH THEY BEAT HIM

(あいつらがフィエロを打っても)

LET HIM NO PAIN

(痛みを感じないようにして)

拷問を受けるフィエロのためにエルファバが歌う『No Good Deed』も一種の言葉遊びです。曲名からして言葉遊びです。エルファバがマントをはためかせながら「No good deed goes unpunished」と繰り返し歌うこのフレーズは、「よくないことは絶対に罰せられない=いいことは必ず罰せられる」という二重否定の慣用句です。

Lisa.K の英語生活 : 意味が通るかどうかを考えてみる必要がある和訳

こちらのブログで日本語としてどう訳すべきかを詳しく解説しているのですが、初めて使ったのは文豪オスカー・ワイルドだそうです。自然な形で意訳すると「親切心がかえって仇になる」。

このように『ウィキッド』には日本人になじみのない言葉遊びが頻出します。しかも、日本語に訳された時点でそれらは跡形もなく消えてしまいます。『ウィキッド』が日本でヒットしなかった理由はこのへんにあるのかな~。

そして、『ウィキッド』の特筆すべき点は、女性二人が主人公であるところ。ブロードウェイ・ミュージカルは女性主人公の作品もそれなりにあるのですが、ハリウッド映画はアクションだろうがサスペンスだろうがSFだろうがファンタジーだろうが歴史超大作だろうが99.9%男性が主人公です。

実は、アメリカではドラマと映画よりも、ブロードウェイ・ミュージカルと映画のほうがはるかに近距離です。

前回ご紹介した『プロデューサーズ』は映画→ブロードウェイ・ミュージカル→映画という過程を経ました。『ヘアスプレー』もこのパターンです。『リトル・ダンサー』『スパイダーマン』『ロッキー』のように、ヒットした映画はたいていミュージカルになります。

映画『THE JUON/呪怨』で主役を務めたサラ・ミシェル・ゲラーは、公開当時、ホラーは女性が活躍できるジャンルだとインタビューで語っていました。日本よりも男女同権が浸透しているアメリカでさえ、女性はあくまで画面に華を添えるおまけ扱い。

ウィキッド』はエルファバとグリンダの友情物語です。フィエロをめぐって三角関係になりますが、王子様はあくまでおまけ。『ウィキッド』は映画『テルマ&ルイーズ』『フライド・グリーン・トマト』『ボーイズ・オン・ザ・サイド』『カラーパープル』などの系譜に連なる作品じゃないかなと勝手に思っています。

社会学者のイヴ・K・セジウィックも、ゲイ(同性愛者)男性とヘテロ異性愛者)男性は深い溝で断絶されているが、ゲイ女性とヘテロ女性は連綿とゆるくつながっていると言っていますし。

セジウィックの本を読んだのがかなり昔なのでうろ覚えですが。 

クローゼットの認識論―セクシュアリティの20世紀

クローゼットの認識論―セクシュアリティの20世紀

 

残りの作品をご紹介するとか書いておいて、まーた無駄に長くなってしまいました。書いても書いても終わらないよママン…。

続きは次回。

 

 

 

こじらせ男子について詳しく知りたい方はこちらもどうぞ。

misandry.hatenablog.com

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*1:クイーンビー(女王蜂)とはスクールカーストの頂点に立つ女子生徒のこと

*2:コミュニケーターって何?